古川美佳 連続企画「21世紀の東アジア文化論」vol.3
井口大介展「伝えられ、伝えること
    ・・・広島第二県女二年西組、関千枝子さんと共に」

井口大介展「伝えられ、伝えること・・・広島第二県女二年西組、関千枝子さんと共に」

 

 ギャラリーマキでは連続企画「論証−群島のアート考古学」第2弾として、
 10月18日(土)より 井口大介(Daisuke Iguchi)展「伝えられ、伝えること
 ・・・広島第二県女二年西組、関千枝子さんと共に」を開催します。

        期間:10月18日(土)〜11月8日(土)
        開廊:12時~19時
        休廊:日・月・祝日

 

 ★11月6日(木)19:30より
  大山もも代さんによる「朗読のイベント」を行います!
  皆様のご来場をお待ちしております。
→ 終了しました!

        【イベントの詳細はこちらをクリックしてください】

 

 ★10月18日(土)17:30より オープニングパーティを行います。
  また、18:30より 作家を囲んで講演とトークイベントを、
  新川区民会館にて行います。
→ 終了しました!

    ・講演:関千枝子(ノンフィクションライター)
    ・パネラー:井口大介、毛利嘉孝、清水知子、古川美佳(司会)

 ★さらに10月25日(土)18:30より 作家とのトークもあります。
  → 終了しました!

    ・パネラー:笹木敏男

        …両日とも、お越しをお待ちしております。
        【イベントの詳細はこちらをクリックしてください】
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† 井口大介展の紹介     古川美佳

 数年前の「9.11」をふり返り、「テロとの戦い」という言葉に慣れ、さまざまな地域の紛争を耳にしているうちに、いまだに私たちの足元に埋もれている戦争―アジア太平洋戦争の断片が遡って透けてみえてきます。それら私たちの記憶の断片をつなぎ合わせながら過去を見つめ直す作業は、「今日の戦争」を嗅ぎ取り、アジアの現状を検証する作業ともいえます。同時にそれは、戦争で死んで冷たくなった遺体を漫然と想像するのではなく、死んで肉体をぬいだ魂の息遣いを自分の中に受けとめ、その呼吸に共振共鳴していく、そんな膨大なエネルギーが必要とされます。そうしているうちに、「戦争」は跡形もない過ぎ去った話ではなく、いまこの日常に生きる私たち自身の内にも生息しているのではないかと感じるようになります。こうした相貌を伝えてみようと、今回「21世紀の東アジア文化論」に登場してもらうのは、日本のアーティスト井口大介さんです。

 井口大介さんは、絵画―ペインティングを主として活動してきましたが、90年代はじめドイツに渡り、ベルリンに滞在しました。ドイツで芸術と政治、社会との関係を肌で感じ、また、日本を外側から見ることでのインスタレーションの展示をブレーメンで行い、以来、自己を取り巻く社会的問題をテーマに絵画という形式にこだわらずに、多様な要素を取り入れた表現を試みるようになります。

 2001~2年に、デンマークの美術館で映像作家S・マルティンセンとダイアローグをしながらコラボレーションをした作品は、「9.11」をテーマに現代のカオスを表現したもので、このときの2人の対話はドローイングによってなされ、同時に発表されました。このことは、後の井口さんの作品に、ある一つの方向性を指し示すことになったようです。全く異なる二人のアーティト各々が抱え持つ背景―歴史、社会、政治、文化・・・を互いに丸ごと受け入れながら、なお<共>の時空間をつくりあげ、考えていくことで、作品におけるコミュニケーションのあり方、新たな表現の可能性にめざめたともいえます。そうした過程を経て、イラク戦争の際は、「No!」をつきつける行動にも参加し、「同時代を考える場としての美術表現」をてがける展覧会にも度々出品するようになりました。

 その井口大介さんが今回、対峙するのは、広島の原爆で亡くなった少年少女たちです。ノンフィクションライターである関千枝子さんとの出会いをもとに、現代という、全く異なる時間と場所に、戦争の記憶を構築していく作品です。広島の被爆者の少年少女たちの死が、実は「靖国」の死にまで連なっていたという事実に向き合い、いま再びそのことを問いかけます。名もなき人々の記憶と魂を再生させるかのようなインスタレーション――寡黙なオマージュを展開しながら、井口さんは、過去と現在をつなぎ、未来へ向かおうとする<共>の時空間、静かなる「マルチチュード」の試みを、この東アジアの片隅からはじめようとしているのかもしれません。
 作家本人のステイトメントを以下、ご紹介します。ぜひ、実際に体感してみてください。

 

 

† 伝えられ、伝えること、「広島第二県女二年西組」、関千枝子さんとともに

 今回の展示は、前回の「ヤスクニ」展(2008,8月)に発表した一般人合祀の問題を展開したインスタレーションで、ノンフィクションライターである関千枝子さんの著書「広島第二県女二年西組」をテーマにしたものです。
この「広島第二県女二年西組」は、1945年8月6日、アメリカが、広島に原爆投下した際、多くの子供たちが広島に学徒動員されているため犠牲となり、その中で奇跡的に生き延びた2年西組の関千枝子さんが、原爆によりほとんど亡くなられたクラスメートひとりひとりに何が起きたのかを克明に綴った渾身の著書です。
(この著書は1985年度日本エッセイストクラブ大賞を取られております)

iguchi_s1.jpg 広島、長崎への原爆投下は、人類に対する明らかなジェノサイドです。この悲惨な実情は、後々まで続く放射能における後遺症や様々な偏見、差別など、このことを語り続ける語り部の方々も段々も高齢となり、若い世代にも伝わりにくくなっております。昨今では、アメリカ人で日系のスティ-ブン・オカザキさんのドキュメント「ヒロシマ・ナガサキ」が、昨年公開になり(アメリカでも公開)反響を呼びました。僕も昨年、この作品を8月6日に岩波ホールで見た際、僕の中に何かが深く刻まれ、なぜ日本人が撮れなかったのだろうと思いました。

 関さんの「広島第二県女二年西組」は、原爆を落とされ亡くなっていったクラスメート、先生等の遺族や自分の記憶、証言を繋ぎとめ、原爆によってただ単に、瞬間に亡くなられたのではなく、かろうじて生きていた凄まじい時間とそれぞれのクラスメートにとって、それぞれの遺族にとって嘗てない死に向かう未曾有の体験をした時間がここのあったのだ、ということが分かります。
 さらに、強調されるのは、戦後、戦争で天皇のため国体護持のため聖戦として戦い亡くなった英霊を命(神)となり合祀した靖国神社に、原爆で犠牲になったクラスメート全員が遺族の意向で一般人として合祀されてしまっている戦後のねじれた問題があります。(はたして原爆で亡くなられたクラスメートの魂は、靖国神社合祀を望んだだろうか?)
*展示資料参照のこと
 また、最近の文書で関さんは、原爆で犠牲になった死者の実数が、学徒の場合明らかな問題があることを指摘しております。それは、在日朝鮮、朝鮮の方々の学徒人数が死者にカウントされていない事実があることです。*展示資料参照のこと

 もうひとつ関さんからのご紹介のあった、「星は見ている」故藤野博久の母、藤野としえさんの文は、1945年8月6日の前日の夜、博久さんが、戦争に行ってしまった博久さんの兄を思い、母のとしえさんと星を見ながら「どうして戦争が起きるのか、やめてほしい、世界がひとつの国家になってほしい」と、ジョン・レノンの「イマジン」より前に平和を願った文言を綴ったもので、8月6日、家族になにが起きたのかが書かれています。*展示資料参照のこと(関さんは、博久さんの発言を「憲法9条のことをいっているように思えてならない」とも述べています)
 博久さんは、学徒動員され原爆投下で遺体も見つかりませんでした。この方も靖国に合祀されております。(博久さんは靖国合祀を喜んでいるだろうか?)

iguchi_s4b.jpg 僕は、この方々の深い悲しみと重さは、計り知れないものがあり、到底表現しうるものではありませんが、何か伝えることはできるのではないかと考えました。このとき、ある文章を思い浮かべました。この文章は、ダニ・カラヴァンも作品で示唆的に使用おりますが、W・ベンヤミンの 「有名な人々よりも、名もない人々の記憶に敬意を払うほうが難しい。歴史の構築は、名もない人々の記憶に捧げられる。」です。僕は、これに文言を少し付け加え「有名な人々よりも、名もない人々の犠牲の記憶に敬意を払うほうが難しい。歴史の構築は、名もない人々の犠牲の記憶に捧げられる。この名もない人々の記憶と魂をもてあそぶことは、ゆるされない。」と変え、広島と靖国に関連付けることで、インスタレーションの展示に使えるのではないかと思いました。

 いささかおこがましく教条的ですが、現在の日本で僕が美術表現を通じ、現時点から僕が捉えることのできる未曾有のジェノサイドに対する思いと、とても難しい問題ですが、戦後見ることを拒んできたねじれの問題について考えることのできる場として、いまの人々に何かを伝え、そして異なる場にも何か伝えられることができればと思っております。

 この展示にあたり、様々な教示や深い示唆を与えてくださり、著書や映像を提供していただいた、関千枝子さんに厚く御礼申し上げます。また、前回の「ヤスクニ」展からインターネットでは知りえない貴重で重要な資料と示唆、著書を提供していただいた、靖国研究家、辻子実さんに重ねて御礼申し上げます。そして、この展示の機会を下さった企画者の古川美佳さん、ギャラリーマキの坂巻さんのお力添えに感謝したいと思います。

少し長めのステイトメントとなりましたが、
最後までお読みいただきありがとうございました。

2008,10月   井口大介

 


 

井口大介(いぐち だいすけ / Iguchi Daisuke)プロフィール

1958 東京に生れる。
1982 多摩美術大学絵画科油絵専攻卒業
1992 ドイツ、ベルリン滞在
1994 同年12月帰国

*90年代以降の主な展示

〈個展〉
1994 kulturwerkstatt:westend:bremen (ブレーメン、ドイツ)
1995 調布画廊(東京)
1996 ギャラリーなつか(東京)
1998 文房堂ギャラリー(東京)

〈グループ展〉
1988 ハイネケンギャラリーズバー、チャヤザカ(ハイネケンギャラリー、東京)
    第24回今日の作家展、多極の動態(横浜市民ギャラリー、神奈川)
1989 90年代へのプロローグ(ハイネケンビレッジギャラリー、東京)
1990 第3回ホルベインアクリラアート展(目黒区美術館、東京)
1991 第3回神奈川アートアニュアル(神奈川県民ホールギャラリー)
1996 第3回VOCA展96.現代美術の展望ー新しい平面の作家たち
    (上野の森美術家、東京)
    アトピックサイト、キャンプオンキャンプ、cliプロジェクト(東京ビックサイト)
1999 第34回今日の作家展、コンセプチャリズムの新たな展開
    (横浜市民ギャラリー、神奈川)
2001 ギャラリー由芽 、~08まで毎年(東京)
2002 ブラインドデート(オデンセ市ブランツ美術館、デンマーク)
2004 第13回小さな国際美術展(新宿タカシマヤ、東京)
    戦後美術のもう一つの場所、あるサラリーマンによるコレクション
    (福井市立美術館、福井)
    パスワード展(CCGA現代グラフィックアートセンター、福島)
2005 今日の反戦展(丸木美術館、埼玉)
    韓日、日韓5世代の対話展(丸木美術館、埼玉)
2008 「靖国」の闇に分け入って・アートで表現するヤスクニ(一ツ橋画廊、東京)

〈所蔵〉
横浜市甲南病院、三重県員弁町立員弁中学校ホール陶壁画、福井市立美術館、
周南市美術館、現代美術資料センター、westendブレーメン.ドイツ、
三鷹市民ギャラリー、など

 


 

 ■講演・トークイベント<1>「伝えられ、伝えること―広島と靖国」→ 終了しました!

        講演:関千枝子(ノンフィクションライター)
   トークパネラー:井口大介(美術家)
           毛利嘉孝(社会学者)
           清水知子(英国文化研究)
           古川美佳(韓国美術・文化研究/司会)

   日時:2008年10月18日(土)18:30―20:45
   会場:新川区民会館(電話:03-3551-7000 住所:新川1-26-1)
      アクセス:東京メトロ日比谷線または東京メトロ東西線茅場駅を下車、
      1番出口より徒歩10分(下記の地図を参照願います)。
      ※GALLERY MAKI より徒歩3分です。

 

 ■トークイベント<2>「戦争と美術について」→ 終了しました!

      パネラー:笹木繁男(「現代美術資料センター」主宰)
           井口大介(美術家)

   日時:2008年10月25日(土)18:30―20:45
   会場:新川区民会館(同上)

 

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★イベントへの参加お申し込みは GALLERY MAKI まで。
 FAX:03-3551-7000 もしくは、
 E-mail image1.png にお願いいたします。

 


 

 ■井口大介展 朗読イベント→ 終了しました!

   朗読:大山もも代

   日時:11月6日(木)19:30より
   会場:ギャラリーマキ

 


 大山もも代 プロフィール…BEKA(今福龍太門下生からなる遊動的創作集団)の一員として、詩作、踊り、造形活動などに取り組むかたわら、声による表現を模索中。日本語の美しさや、楽しさ、ふくよかさに魅せられ、大学では日本語を中心に学ぶ。今後は、スライドに活弁を付けるなど、声とのコラボレーションによって生まれる表現の可能性を広げていきたいと考えている。目下の趣味は「思考の種」集め。<br />
〈略歴〉1983 東京に生まれる。1996 家族とともにイタリア ローマへ。1999 帰国。2003 東京外国語大学入学。2005 後の師となる今福龍太氏との出会い。2007 東京外国語大学卒業〈声の略歴〉2005 奄美自由大学にてW.B.イエイツの詩を英語/日本語朗読。2006 J.M.G.ル・クレジオ氏来日時上演 朗読劇「声の羽」出演。2006 今福龍太・吉増剛造 『アーキペラゴ──群島としての世界へ── 』岩波書店出版記念イベントにてE.ビショップ “Pink Dog” を朗読。2007 16時間美術館においてトリン・T・ミンハのテクストを朗読。